思川を一望できる「絹屋旅館」。地域で親しまれ続ける旅館と思川の記憶

小山駅西口から祇園城通りを真っすぐ進み、徒歩8分。
春には桜、夏には花火を客室から一望できる「絹屋旅館」をご存知だろうか。

思川にかかる観晃橋の手前にある創業60年程の老舗「絹屋旅館」。道路を挟んだ向かい側には城山公園、旅館のそばには思川が流れている。四季折々の食材を使用した料理も味わえるので、どの季節に泊っても満喫できる旅館だ。

そんな、思わず足を運びたくなる旅館を営む西村さんに、「絹屋旅館」や思川で過ごした「これまでのコト」について話を伺った。かつて、どのような遊びや地域の営みがあったのだろうか。戦後間もない頃からこの地域で暮らしてきた西村さん視点のニシグチオヤマをお届けしたい。

絹屋旅館から見たかつての風景

春には桜、夏には花火を客室から一望できる「絹屋旅館」。毎年夏になると思川のほとりで花火大会が開催されるが、特等席から花火を見るために1年前から部屋を予約する人もいるという。旅館の屋上も貸し出しており、ゴザを敷いて花火を楽しむこともできるそうだ。旅館の落ち着いた空間で、打ち上がる花火を真正面から見えるため、まさに最高の環境と言える。

絹屋旅館の客室から眺める思川の風景
絹屋旅館の屋上から眺める花火

訪れた人に素敵な環境を提供している「絹屋旅館」だが、かつては木造2階建ての「南屋食堂」という名だった。当時は西村さんのお母さんがお店を営んでいたそうだ。まだ家庭にエアコンが普及していない頃で、お客さんが涼めるように歩道沿いに縁台を出し、かき氷を販売していたという。

また、「絹屋旅館」の裏手にある駐車場には、思川の水をくみ上げるためのポンプ小屋があった。大きなモーターが付いたポンプでくみ上げられた水は小山駅に運ばれ、蒸気機関車に使用されていたというから驚きだ。

かつてはポンプ小屋があった駐車場

建物を建て直し、現在の「絹屋旅館」の姿になってからは、ビジネスで長期滞在する人が旅館に訪れるようになった。2000年頃には旅館の1階で喫茶店「ボンジュール」が営まれていたという。20人ほど入れる店内では、西村さんが喫茶店のマスターとしてお客さんをおもてなし、妹さんが作ったケーキを提供。今は喫茶店を辞めてしまったが、城山公園や思川を訪れた人たちが一休みできる憩いの場だったことが想像できる。

夏の風物詩だった思川に浮かぶ屋形船

西村さんが小山で暮らし始めたのは小学生の頃。戦後のベビーブームで、小学校には多くの子どもたちが登校していた。各小学校にプールが無い時代で、夏になると子どもたちは思川に訪れ、泳ぎの練習をしていたという。

城山公園から見た絹屋旅館と思川。旅館と思川、城山公園が近いことが分かる。

思川で過ごした思い出はまだまだある。河原を裸足で歩き回って川遊びを楽しんでいたこと。長い糸にミミズを付けてナマズやウナギを釣ったこと。釣った魚を川魚屋さんに持っていったこと。当時は投網で魚を捕る人や、障子や芋を洗う大人の姿もあったそうだ。そんな子どもの頃の思い出を西村さんは笑顔で話してくれた。

大正から昭和にかけて、思川では屋形船や貸しボートが夏の風物詩となっていた。西村さんが子どもの頃も川沿いに屋形船が浮かんでおり、多いときは10隻ほど並んでいたそうだ。屋形船にはお客さんの他に、船頭さん、芸者さんが乗船。さらに、アユを捕るための小型の船が付き添っていた。お酒を飲みながら舟遊びを楽しむことができ、アユ漁を間近で見れる珍しさから、会社の接待にも使われていたそうだ。

「思川の近くには芸者さんが大勢いて、船大工さんが屋形船を造ったり直したりしていました。舟遊びが衰退してからは、周りにある料亭や芸者さんの数が減り、屋形船も次第に姿を消していきました」と西村さんは話す。 夏の風物詩となっていた屋形船は役割を終えて姿を消してしまったが、地域で暮らしてきた人たちの記憶にしっかりと残っているようだ。

今も地域で親しまれ続けている思川

思川は釣りをする人や散歩をする人など地域で暮らす人たちに親しまれてきた。最近ではSUP(ボードの上に立ち、パドルを漕いで水面を進んでいくアクティビティ)や、思川の土手で「リバーサイドマルシェ」が開催されなど、新しい取り組みが始まっている。

リバーサイドマルシェが開催された時の様子

そんな最近の様子について西村さんに聞いてみたところ、「近隣で暮らしている人たちに配慮したうえで、色々な使い方がされるのは良いですね。小山駅から10分程ですが、旅館の辺りまで歩いてくる人は少ない気がします。定期的に行事が行われると、足を運ぶきっかけになるかもしれません」とのこと。

今後も思川周辺では地域の様々な営みが行われていくだろう。 そして、足を運び、訪れた人たちに素敵な思い出が生まれていきそうだ。

絹屋旅館で「これまでのコト」に想いを馳せながら眺める景色

思川に屋形船が並んでいた様子、絹屋旅館で喫茶店が営まれていた様子は、今はもうない景色だ。しかし、「これまでのコト」に想いを馳せることで、きっと新たな楽しみ方が見えてくる。

思川が流れる景色をゆっくりと眺めながら、「絹屋旅館」で思い出に残るひと時を過ごしてみてはいかがだろうか。

絹屋旅館さんの情報
  • 住所:栃木県小山市中央町1-2-4
  • 電話:0285-22-0668
  • 定休日:年中無休
  • 総部屋数:10室
  • 駐車場あり
  • 素泊まり4,000円~
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